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大名の隠居祝いの目録を祖母の実家で見せてもら右ったことがある。その家は、ある小藩の側用人のような役目であったから、書類の控えや下書きが何通か残っていたのである。現役を退いた殿様に、親戚の殿様が何を送るかというと、「氷餅」や「干鯛」など実に地味である。そのお返しも、領地の産物「干瓢」と、負けず劣らず地味。江戸も末の頃になると、いずこのお大名の懐にも寒風が吹いていたらしいIそれはそれとして、これらの地味な贈答三品も、その極上品はまことに結構なもの。巧くとった干鯛のお出汁ときたらそれは素晴らしい風味であるし、ぶりぶりと歯応えする肉厚な干瓢を具にした、溶き卵の吸い物には、ちょっと関東離れした雅さがある。中でも艮きものは「氷餅」。極上の餅を寒風に晒した、いわば餅の高野豆腐で、気候条件などから信州諏訪の他、ごく限られた地域でしかつくることができない。故にその珍らかなるを愛でて、祁のかしこきあたりや時の権力者にも献上された。また、その削り花は、高級和菓子で「雪」を表す装飾に用いられるほど。典雅で、茶事や懐石には欠かせない素材になる。日持ちがし、持ち運びに便利な「氷餅」が、江戸時代に最高級の贈繁日叩と見倣されたのも、当然といえようか。この氷餅を原料にした諏訪銘菓が〈初霜〉である。さくり、と口に含むとゆるゆると上品な甘みが舌に溶けてゆく。お湯を注げば、葛湯のような一椀がたちまちできあがる。なにしろ原料はもち米である。その力のつくことといったら、到底重湯の及ぶところではない。あるお年寄りが夏負けをして食欲がない、と聞いたので、諏訪からこれを取‐八寄せて、お見舞いに差し上げた。そのまま口に入れてゆっくりと餅の食感を楽しんだり、少しお湯をかけて半熟にしてみたり、葛湯のようにお湯に溶いたりして、「存分に楽しみました」とご満悦であった。「あんまり美味しかったので、知り合いに差し上げたら『ああ、これぞお菓子ですね』と、感動しておりました。」米の洗練の極致ともいうべき「氷餅」を、ほのかな甘みと優しい口当たりの〈初霜〉に仕上げた菓子舗の、これは手柄といえよう。日本の菓子の底力、である。知っておきたい記念日の贈り物詳細サービス情報